日立製作所の天下り社長が続いていた

リップルウッドに買収されるまで、日本コロムビアの親会社は日立製作所だった。日立グループの時代の日本コロンビアは、日立出身の天下り社長が続き、音楽の企画制作現場にはかかわらなかった。社長と現場の間に4~5人の役職が介在し、斬新なアイデアも社長決裁まで1カ月かかっていたという。交渉が遅れ、アーティストを他社に奪われたこともあった。

しかし、リップルウッドによる買収後、中島正雄氏のような音楽業界をよく知る優秀な人材が経営を行うようになり、日本コロムビアの社風はガラッと変わった。中島氏らの豊富な人脈も武器となった。

「デノン(DENON)」と「マランツ(Marantz)」が統合し「D&M」に

一方、日本コロムビアから分離されたAV機器部門「デノン(DENON)」は、オランダの電機メーカー傘下にあった日本マランツ(marantz)と経営統合した。そして、2002年、新会社「D&Mホールディングス(ディーアンドエムホールディングス)」(本社:神奈川県川崎市)が誕生した。統合により、有力な高級AV(音響・映像)メーカーとなった。

D&Mホールディングスは、リップルウッドが51%出資していた。

2002年と2003年、米国からベンチャー企業など5事業を買収した。デノンもマランツも、親会社のしがらみから切り離されたことが経営改革につながった。

河原春郎氏

2000年代に日本コロムビアなど国内音楽業界の再編劇の中心を担ったもう一人の人物が、河原春郎(かわはら・はるお)氏だ。

河原氏は東芝出身。東芝時代、発電所のコンピューター制御システムの開発などを手がけた。

東芝の常務から顧問に退いた2000年、リップルウッドの日本法人のシニアアドバイザーに就任した。そして、2002年、リップルウッド傘下の日本コロムビアからAV事業が分社化されたデノンと、中堅AVメーカーの日本マランツとの経営統合を実現させた。

河原春郎

▲河原春郎氏

ケンウッドの社長に就任

河原氏は、日本コロムビア再生の経験を買われ、2002年、ケンウッドの社長に就任した。「個人的な知り合い」から社長就任の打診されたという。1週間考え、「日本が苦境を脱するには、成熟産業の再生こそが必要。知恵や経験は生かせる」と引き受けた。

ケンウッドでは、債務超過170億円の解消に取り組んだ。前社長らの抜本再建計画からさらに踏み込み、不振の携帯電話事業の大幅縮小、従業員の35%削減などを打ち出した。

さらに、河原氏は、ケンウッドと日本ビクターの経営統合(後に合併)を実現させた。自らJVCケンウッドの初代社長に就任した。

ハード部門「D&M」は買収攻勢

一方、日本コロムビアのハード事業から派生した「D&Mホールディングス(ディーアンドエムホールディングス)」(本社:神奈川県川崎市)は、同業他社を買収することで規模拡大に走った。

2003年4月に「リオ」ブランドを持つ米国のデジタル携帯オーディオメーカーを買収した。さらに、2003年5月には老舗スピーカーの「マッキントッシュ・ラボラトリー」を買収した。

米スピーカー大手「ボストン・アコースティックス」買収

D&Mはさらに2005年、米スピーカー大手「ボストン・アコースティックス(Boston Acoustics)」(本社:米国マサチューセッツ州)を買収した。

約7600万ドル(約80億円)で全株を取得した。スピーカー事業の強化で収益性を高めることを目的とした。同時に、成長分野の高級カーオーディオ事業に進出した。

ボストン・アコースティックスのスピーカー

▲ボストン・アコースティックスのスピーカー

米NASDAQ上場

ボストン社は1979年創業。2005年当時、米NASDAQに上場していた。一株当たり17.5ドルで取得した。

発行済み株式の一定比率を持つ大株主と買収で合意すれば、残りの少数株主分も自動的に取得できる「キャッシュ・アウト・マージャー」と呼ぶ仕組みを利用した。

買収資金はみずほ銀行、三井住友銀行から融資

約4割を保有するオーナー一族ら大株主から完全買収の合意を取り付けた。買収資金の大半はみずほ銀行、三井住友銀行など銀行団からの借り入れ(融資)で賄った。

米国内シェア6%

ボストン・アコースティックスは、米家庭向けスピーカー市場で約6%のシェアを握っていた。2004年3月期の売上高は約5200万ドル(約55億円)だった。営業利益率は約8%。売り上げの85%が米国内向けで、カーオーディオ事業も拡大していた。

カーオーディオ進出の足場に

D&Mはボストン社製品の販路を日本や欧州に広げようと考えた。それによって安定した利益率が見込めるスピーカー事業を強化することを狙った。カーオーディオ事業進出の足場としても活用する戦略だった。

2005年3月期のD&Mの連結売上高は916億円、営業利益は約9億円だった。買収により、2005年3月期は売上高が約1000億円、営業利益は30億円強になる計算だった。